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東京地方裁判所 平成9年(ワ)1524号 判決

原告 A

右訴訟代理人弁護士 荒井新二

右同 櫻木和代

右同 泉澤章

被告 明治生命保険相互会社

右代表者代表取締役 波多健治郎

被告 B

右二名訴訟代理人弁護士 関澤潤

右同 西内岳

右同 村島俊宏

右同 林賢治

右関澤潤・西内岳訴訟復代理人弁護士 穂積伸一

右西内岳訴訟復代理人弁護士 鈴木成之

被告 株式会社東京三菱銀行

右代表者代表取締役 高垣佑

右東京三菱訴訟代理人弁護士 関沢正彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告に対し、連帯して、金二億八四四九万五八二二円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成九年二月一五日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告らの負担とする。

三  仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、被告明治生命保険相互会社(以下「被告明治生命」という。)の従業員である被告B(以下「被告B」という。)及び被告株式会社東京三菱銀行(以下「被告東京三菱」という。)の従業員である栗山節雄(以下「栗山」という。)から勧誘を受け、被告東京三菱から資金を借り入れ、保険料を支払って被告明治生命と変額保険契約を締結した原告が、被告らに対し、被告B及び栗山から違法な勧誘を受けたとして、融資金と解約返戻金との差額等につき、不法行為に基づく損害賠償請求をする事案である。

一  前提事実

1  本件各変額保険契約の締結(被告明治生命との間では争いがない。)

原告は、被告明治生命との間において、左記のとおり四つの変額保険契約を締結した(以下「本件各変額保険」という。)。

(一) 記号・証券番号 三一-四九七四七〇

契約日 平成元年一二月一日

契約者 原告

被保険者 原告

保険金 金一億五〇〇〇万円

受取人 C

保険期間 終身

保険料 金九一〇一万七〇〇〇円

保険料払込方法 一時払い

名称 ダイナミック保険ナイスONE(変額保険終身型)

(二) 記号・証券番号 三一-四九八二四八

契約日 平成二年一月一日

契約者 原告

被保険者 C

保険金 金一億円

受取人 原告

保険期間 終身

保険料 金四二六〇万円

保険料払込方法 一時払い

名称 ダイナミック保険ナイスONE(変額保険終身型)

(三) 記号・証券番号 三一-四九八二五八

契約日 平成二年一月一日

契約者 原告

被保険者 E

保険金 金一億一四八〇万円

受取人 原告

保険期間 終身

保険料 金二一八七万三九九二円

保険料払込方法 一時払い

名称 ダイナミック保険ナイスONE(変額保険終身型)

(四) 記号・証券番号 三一-四九八二五九

契約日 平成二年一月一日

契約者 原告

被保険者 D

保険金 金一億円

受取人 原告

保険期間 終身

保険料 金二〇七一万三〇〇〇円

保険料払込方法 一時払い

名称 ダイナミック保険ナイスONE(変額保険終身型)

2  本件銀行融資契約の締結(被告三菱銀行との間では争いがない。)

原告は、右各変額保険契約の保険料支払いのために、平成元年一一月二四日付けにて被告東京三菱(但し、当時は株式会社三菱銀行)との間において、「三菱の長期総合ローン」消費者ローン取引契約という金銭消費貸借契約を締結し、使途保険料払い込み、当初利率年六%、弁済期二〇年後の一括返済として金一億九五〇〇万円を借り入れ、極度額を二億〇五〇〇万円として、利息支払いのために三菱マイカード(ビック)契約を結んだ。

二  主たる争点

被告B及び栗山の原告に対する本件変額保険契約の勧誘行為が不法行為を構成するか。

(原告の主張)

1 本件勧誘の具体的経過等

(一) 原告は一九二二(大正一一)年六月二九日生まれであり、本件保険加入当時は、六七歳であった。

原告は、原告住所地に約五〇〇坪の土地を所有し、一部を第三者に賃貸し、その余に自己所有のアパートと自宅を建て、妻のC及び息子であるDと同居している。

被告Bは、遅くとも昭和五四年ころから被告明治生命の保険外務員をしており、そのころから原告に種々の保険加入を勧誘した。原告が本件各変額保険につき勧誘を受け始めたころ、被告Bは毎月一回は原告方に保険料の集金等に来ていた。

(二) 平成元年初秋、被告Bは、原告に対し、相続税に備える保険の説明会があるから聞きに行くようにと勧誘してきた。

原告は保険に入る金がない旨述べたが、今度のこの相続税対策保険は身銭を切ることがないそうだから、説明会にとにかく行くだけでも行くようにと言われ、原告は妻とその説明会に行くことにした。

(三) 同年一一月一日ころ、被告明治生命は、柏市にあるホテルオークス柏において、変額保険を利用した相続税対策の説明会を行った。そこでは、土地の値上がりは将来確実であり従って土地所有者にとっては相続税対策をしておかなければならないことが強調された。原告らは大分遅れて会場に行った。

(四) その後も、被告Bは原告方をしばしば訪れ、この相続税対策保険は土地持ちの人のための相続税対策のものとして最高のものだと言い、また説明会があるから聞きに行くようにと勧めた。

平成元年一〇月二一日、被告明治生命は柏市にあるホテルサンガーデン柏で、変額保険を利用した相続税対策の説明会を行い、原告の妻がその説明会に参加した。

そこでも、相続税対策をとることの重要性と明治生命のこの保険に加入することの有効性が述べられた。

(五) その後も、被告Bは度々原告方を訪れ、「このプランは、銀行から借金をしてまず相続財産の評価を下げます。銀行から借り受けたお金を一括して保険の保険料に投入するので明治生命がその保険料を運用にまわして大きく保険金を膨らませるから、保険金で借金や利息を返済してもなお相続税の支払いに充てることができる」ものであることを説明した。したがってこの保険の加入者は一銭も身銭を切ることなく相続税対策ができるので、今までにない画期的対策であると述べた。保険料の運用については、「現在、一二から三%でまわっているが、どのように悪くても九%を切ることはないから、銀行から借り入れを起こして保険料を払っても大丈夫」であると説明した。

原告が「うちに大金を貸してくれるところはあるのかね」と聞くとBは「大丈夫。三菱の柏支店さんが貸してくれることになっていますから」と答えた。原告は相続税対策の仕組みについて確信できたわけではなかったが、銀行がそのために貸してくれると言うのだから、よほど確かなものに違いないと感じ、本当に貸してくれるのであれば加入しようと、決意した。

(六) 同年一一月ころ、被告Bが、当時被告東京三菱の柏支店取引先第一課長であった栗山を連れて、原告方を訪れた。栗山は、原告の財産関係等を聞くことはせずにいきなり「このほどご融資させていただきます三菱柏支店の栗山です」と自己紹介し、「良い保険に入られますね」とも言った。原告は、銀行も良い保険であると認識していると理解し、それまで一度も被告東京三菱とは取引がなかったにもかかわらず、融資先の資産を調査しないで、保険料にあてるための資金を貸すのだから、これほど確かな保険はないとの確信を持った。そして、その後の被告らの指図の下に保険契約・融資契約の手続きをとった。

2 被告らの不法行為

(一) 融資組み合わせ型変額保険の危険性

(1)  本件各変額保険は、被告明治生命が、契約者から払い込まれた保険料の一部を「特別勘定」に組み入れ、株式取引などにより運用し、その運用利益を解約返戻金及び死亡保険金に反映させるものである。契約者は、運用が成功すれば、その利益の配分を得ることもできる反面、死亡保険金についての最低保証部分はあるものの、運用が失敗すれば解約返戻金が払込保険料を下回るという危険も負担させられるというものであり、極めて危険性の高い商品であった。

(2)  右「特別勘定」の運用は、被告明治生命にすべてが任されていて、契約者は、払い込んだ保険料の運用について、いかなる指示・管理・監督もできず、一方的な運用実績の報告を受けるしかなく、しかも、実際に運用された成果がどのように具体的に死亡保険金や解約返戻金へ反映されたかも全く知り得ないものであった。

(3)  右保険への勧誘時点における「特別勘定」の運用実績の見込みは、すべて予想数値にすぎないものであり、さらに右のとおり保険の運用が被告明治生命に一任された結果、契約者がその得失を予測することはほぼ不可能である。加えて、我が国の従来の生命保険は定額保険で、死亡保険金や解約返戻金が保証されていたのであり、生命保険に右のような投機性、危険性があるとは一般に知られておらず、容易に理解することも困難であった。

(4)  以上のような、変額保険契約自体の危険性と、その危険性自体を理解し予測することの困難性は、これに銀行融資を組み合せて販売されることで飛躍的に高まる。

融資組合せ型変額保険が、相続税対策となるか否かは、運用収益・借入金利・不動産価格・生存期間・相続税制等多岐にわたって複雑を極める不確定要因に左右されるものであり、一般人がその予測をすることはまず期待できないし、リスクがどこにあるのかを理解すること自体も期待できない。

そして、利息の増大により生じる損失の大きさも、担保に供した不動産を失うなど、自己資金で加入した場合の比ではないのである。

(二) 本件銀行融資の性格

(1)  融資組合せ型変額保険契約では、借金をすることにより相続税負担を軽減し、相続税対策をすることを狙いとしていたから、保険契約と融資契約は、経済的に一体の商品として原告に売り込まれたものである。

(2)  右のとおり保険契約と融資契約は経済的に一体の商品であるが、大銀行として信用のある被告東京三菱が、その一翼を担ったことが、原告をして信用せしめる一つの要因となったのである。

(3)  通常、自己資金では利息すら返済できない個人に対して、本件の如く巨額の融資を行うことはあり得ないことであり、これは被告明治生命と提携して、多額の利息金を稼ぐため、原告に巨額の融資を押し付けた実態を示している。

(4)  勧誘過程において自己資金が一切不要であることが強調されており、これは将来にわたっても不要という意味で説明されたものであって、原告は借入金の返済を現実に負担するという認識を欠いたまま巨額の融資を受けたのである。

(三) 説明義務

(1)  自己責任の前提

原告は、投機的な利得の目的は一切なく、相続財産確保のための相続税対策として本件各変額保険に加入したにすぎないものであり、しかも、資産の運用も被告明治生命に一任され、その内容の説明も受けられない契約となっていたのであるから、原告の自己責任を問う前提としては、一般の証券取引の場合以上に、取引の危険性を十分に認識理解させる程度の説明が要請されるのである。

(2)  保険会社及び勧誘員の説明義務

右の理由から、被告明治生命及び被告Bは、原告に対し、信義則上、次の説明義務を負っていた。

すなわち、本件各変額保険の運用利回りは予想数値であり、解約返戻金及び死亡保険金を一切保証しないこと、融資組合せ型変額保険における収支は、借入残金の増加と解約返戻金ないし死亡保険金の増加の競争となり、元本割れの危険性もあり、最悪の場合は借入残金返済のため不動産の処分をしなければならない事態もあり得ること、という商品の危険性を原告に十分説明し、理解させた上で、真に原告の判断で契約を締結させる義務があった。

(3)  金融機関の説明義務

融資組合せ型変額保険は、銀行の融資が不可欠の核心的要素であり、変額保険と経済的に一体の商品であること、被告東京三菱が被告明治生命と提携して売り込んでいたこと、大銀行の存在が原告をして信用せしめたことからすれば、被告東京三菱も、信義則上、被告明治生命と同様の説明義務があったというべきである。

(四) 違法性

右の如く、被告らは説明義務を負っていたが、被告らは全くその説明義務を履践せず、そればかりか、大企業の看板と信用を利用して、自己資金不要という説明によって原告を勧誘し、異常な融資で巨額の負債を押し付け、一般庶民である高齢の老人に莫大な損害を与えたものであり、その違法性は公序良俗に反すると評価できるほどのものである。

(五) したがって、被告Bは民法七〇九条により、被告明治生命及び被告東京三菱は民法七一五条により損害賠償責任を負う。

3 原告の損害

(一) 原告の被告東京三菱に対する借入残金は、平成八年一二月三日ころの時点で、金三億五二〇一万七九四八円に達している。

また、原告は手持ち金をローン等の支払いにあてており、その合計は五〇〇万円であった。

他方、本件各変額保険の解約返戻金は同年一二月四日の時点で、金八二五二万二一二六円であるから、その差額金二億七四四九万五八二二円の損失を生じている。

(二) 慰謝料金一〇〇万円

(三) 弁護士報酬等金九〇〇万円

(四) 右(一)ないし(三)の合計金二億八四四九万五八二二円の損害が生じている。

(被告明治生命の主張)

1 そもそも、生命保険募集人は、保険金や解約返戻金が運用実績によって増減することや解約返戻金には基本保険金のような保証がないこと等変額保険の特徴や仕組みについて説明していればその義務を果たしているということができ、また、そのような説明がなされていれば、契約者は運用実績次第で相続発生時に借入元利合計額が返済できなくなる可能性があることを簡単に認識・理解することができる。

2 本件においては、被告Bは、原告を本件変額保険加入に勧誘するに当たって、設計書等を使って、保険金や解約返戻金は運用実績に応じて増減すること、解約返戻金には基本保険金のような最低保証はないこと、〇%、四・五%、九%の各運用実績ごとの保険金額や解約返戻金額はどのような金額になるかということ等を説明しており、またシミュレーションでも一定の金利・運用実績等を想定した場合の借入元利合計額や保険金額、解約返戻金額等の推移を示しており、生命保険募集人としての義務を果たしており、原告の請求は理由がない。

(被告東京三菱の主張)

1 被告東京三菱柏支店が原告と取引したのは、本件が初めてであり、被告明治生命から、平成元年一一月初旬に、原告が加入する予定の変額保険の一時払保険料支払のために融資ができないかと問い合わせを受け、被告東京三菱の栗山は被告Bの紹介により原告と会ったのである。

原告は、本件とは別に、既に被告明治生命との間で少額の変額保険契約を締結しており、原告と被告Bとは親密な関係にあったし、原告は変額保険の内容・運用・リスク等についても十分検討済みの様子であった。

栗山が尋ねられたのは、融資が可能か否かということであったので、被告東京三菱としては、担保評価、ダイヤモンド信用保証の承認手続き等を経て貸付が行われるという説明をした。

2 その後、担保調査、融資金額の確定、ダイヤモンド信用保証の承認、原告側の借入意思及び保証意思の確認手続などを経て平成元年一一月二二日に一億九五〇〇万円の貸付実行に至った。

3 右貸付時点では、原告を被保険者とする一億五〇〇〇万円の変額保険、原告の妻を被保険者とする二億円の変額保険に加入するとのことであり、被告東京三菱は、後に原告の妻の保険金額が減額され、原告の長男、長女を被保険者とする保険加入をしたことを知ったのである。

4 以上のとおり、原告の本件各変額保険加入は、原告と被告明治生命との間で実質的に決まっていたものであり、被告東京三菱は、その資金を融資したにすぎない。したがって、被告東京三菱が、本件各変額保険加入を提案したり、積極的に推進したりしたことはなく、もとより被告明治生命との提携、連携もなかったのであって、原告の請求は理由がない。

第三当裁判所の判断

一  変額保険について

甲第三九、四〇号証、乙第一一号証によれば、次の事実が認められる。

1  変額保険は、昭和六〇年五月、大蔵大臣に対する保険審議会答申で、社会情勢の変化に応じ、経済成長に伴う資産運用の成果を契約者に還元しうる保険で、保険料を株式投資等で資産運用し、その成果が直接保険金額に反映されることから、インフレに有効に対処することができる利点があるとして着目され、国民の需要がある新保険商品であり行政上の必要な措置を講ずれば特に問題はないと答申され、認可すべき変額保険の内容や実施に当たっての死亡保険金など最低保証の問題、分離勘定の設置、資産評価の方法、資産運用規制、契約者保護のための情報提供、募集体制の整備等の問題が保険審議会等で検討された結果、昭和六一年七月一〇日付けで、大蔵省によって生保一八社に対し変額保険の商品認可が行われ、実際には、昭和六一年一〇月から販売された。

2  変額保険とは、その保険料の大部分を、変額保険契約の資産を運用するために定款に基づいて設定され、他の保険料と分離した特別勘定において管理される特別勘定資産とし、これを保険会社の定めた運用方法に基づいて、上場会社の株式等の投資運用に回し、その運用の結果を直接保険金額に反映させる保険である。それゆえ、終身型の基本保険金額は保証されているものの、解約返戻金などは、資産運用の結果次第で変動し、そのリターンもリスクも保険契約者の側が自己責任において負担することになる。

3  右のように変額保険は、生命保険契約でありながら他の生命保険と比べると投機性が高く、その意味でハイリスク・ハイリターンな商品であり、特に、銀行借入で保険料をまかなった場合には、銀行の借入利息が着実に増加していくために、変額保険の資産運用によってはさらにリスクが拡大する面がある。他方、銀行借入をすることによって相続資産を圧縮することができ、しかも、終身型の基本保険金は保証されているので、運用次第によっては相続税対策に効果を発揮するというハイリターンな面も認められる。

二  事実経過

当事者間に争いのない事実、甲第一号証の一、二、第二ないし一二号証、第一四ないし三七号証、乙第一ないし四号証の各一、二、第五号証、第一〇号証の二ないし一二、第一一、一二号証、第一三号証の一、二、第一四ないし一六号証、第一七ないし一九号証の各一、二、第二〇、二一号証、丙第一ないし一〇号証、証人栗山節雄の証言、原告本人尋問の結果、被告B本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

1  原告

原告は一九二二(大正一一)年六月二九日生まれであり、本件各変額保険契約加入当時は、六七歳であった。

原告は、尋常高等小学校を卒業、戦後復員すると、トラックの助手、市役所の運転手を経て、東武バスの運転手として昭和五四年八月三一日に退職するまでに二二年間勤め上げた。

原告は、昭和三一年妻Cと結婚し、長女E、長男Dをもうけ、本件各変額保険加入当時、Eは原告所有の土地の上に家を建てて別の所帯を持ち、Dは原告と同居していた。

原告は、原告住所地に約五〇〇坪の土地を所有し、一部を第三者に賃貸し、その余に自己所有のアパートと自宅を建てて暮らしていた。この自宅を建築する際に、原告は銀行から借入をしたことがある。資産の管理については、妻や子に相談することもなくすべて原告が自ら行い、地代家賃収入があったため、確定申告も、昭和六一年ころまでは、自分で行っていた。

2  本件各変額保険契約締結前の経緯

(一) 被告Bは、昭和五一年四月から、担当職場として東武バス株式会社柏営業所を訪問するようになり、原告と面識を持った。被告Bは、訪問する都度、原告と話をするなどして、昭和五二年末ころ、原告から定額保険(ゴールド)の契約を受けることに成功した(乙第一八号証の一)。そして、右保険の保険料の集金として、原告退職後も原告方を訪問するようになり、昭和五五年一一月、長女Eを契約者、被保険者とする定額保険などに加入してもらった。なお、被告Bは、昭和六一年一〇月に変額保険販売員資格を取得していた。

(二) 原告は、朝日生命の外交員の訪問を受けるなどもしており、生命保険を勧められたが、払い込む保険料と満期の保険金を比較して保険料の額に対して満期の保険金額では割に合わないつまらない保険だと考えて、加入しなかったことがある。

(三) ところで、原告は、前記のとおり、所有する敷地の一部(約三八坪)に家作を所有し、これを賃貸していたが、利益が上げられなかったため、昭和六一年春ころ借家人が出たのを機会にその敷地を二二一七万円で売却し、その代金を税金の支払いや妻Cの弟への貸金にあてるなどしたが、余剰資金ができた。そして、原告は、昭和六二年八月末ころ、余剰資金があることを被告Bに話したところ、被告Bは、当時変額保険の人気が高く、変額保険の加入者が多いことを認識していたので、原告に対しても変額保険について話をし、原告は、これに興味を示した。そこで、被告Bは、原告に対し、数回にわたって、変額保険のパンフレット(甲第三〇号証)や設計書(甲第二八号証)等を用いて、変額保険の特徴について説明した。

右説明に際して、被告Bは、主に設計書を使用し、<1>保険料と基本保険金額を確認した上で、定額保険とは別の特別勘定で株を中心に運用していること、<2>設計書の波形の図を示しながら運用実績に応じて保険金と解約返戻金が上下すること、<2>基本保険金は保証されるが解約返戻金の保証がないことについて、九%、四・五%、〇%の場合の運用実績例を示して説明した。

右のとおり、この設計書には、九%、四・五%、〇%の運用実績を想定した保険金額・解約返戻金のシミュレーションが記載されていたが、他方で、設計書の運用実績欄の「九%の場合」と一〇年後の解約返戻金「一〇七九万円」にボールペンで丸で囲んだ書き込みがあり、被告Bが、主に九%の運用を重視して説明したことが窺われる。

その際、原告は、実際の運用実績について質問し、被告Bは、当時変額保険を販売してから一年を経ておらず、運用実績についてはっきり分からなかったので、自己が加入している変額保険の保険金と解約返戻金を例にして、九%程度で運用できていると思うが、株を中心に運用しているので、株価が下がれば運用実績も下がると話した。

このようなやりとりを経て、原告は、昭和六二年九月二一日、原告を被保険者とする基本保険金額一〇〇〇万円の変額保険に加入した(甲第二九号証)。このとき、被告Bは、「ご契約のしおり定款・約款」(乙第一五号証)を交付した。

さらに、原告は、長男Dを被保険者として設計書の交付を受け(甲第三一号証)、昭和六三年八月一八日、長男Dを契約者、被保険者とする基本保険金額一〇〇〇万円の変額保険を契約し(甲第三二号証)、やはり「ご契約のしおり定款・約款」(乙第一六号証)を受け取った。

(四) 昭和六三年夏、原告は、同級生が死亡し、その子供達が相続税を払うのに苦労しているとの話を聞いた。原告は、以前から相続税対策の必要性については考えていたが、右の事件を契機に、相続税対策を講じておかなければ、残された遺族が苦労するということを改めて認識した。原告自身、平成元年当時、所有している五〇〇坪の土地につき、坪一〇〇万円近くになると評価していた。

ところで、原告は、右同級生に土地を一部貸していたが、同人の子供達は、相続した土地だけでは地形が悪く、原告から借りている土地も一緒に売りたいと希望し、原告は、同人らを気の毒に思ったので、これを同人らに売却した。

このようにして、原告は、この売却代金を手にしたので、相続税対策として、納税資金を作るための保険に入ろうと考え、被告Bに頼んで、平成元年三月二九日付けで、保険料一九〇〇万円、保険金額三五〇〇万円のパイオニア終身保険(定額保険)に加入した(甲第三三号証)。この加入に際して、被告Bは、変額保険と右定額のパイオニア保険の両者のパンフレットと設計書を持参したが、この両者から原告が定額のパイオニア保険を選択した。

3  本件各変額保険契約の締結

(一) 被告Bは、平成元年九月末ころ、保険料の集金のために原告方を訪問した。原告が、以前から、相続税で困っている旨話していたため、被告Bは、研修会の際に変額保険を利用した相続税対策の勉強をしたことを話した。原告がこの話に興味を示したため、被告Bは、営業所に戻り、研修会で使用された資料を書きまとめ、設計書などを作成した。

(二) 同年一〇月三日ころ、被告Bは、原告方を訪問し、手書きの資料(甲第一ないし一二号証)、原告夫婦を被保険者とする二通の設計書(甲第一七号証)及びパンフレット(乙第一二号証・甲第二七号証)を交付した。原告夫婦の年齢では基本保険金額二億円が限度とされており、原告自身は既に合計五〇〇〇万円の生命保険に加入していたため、原告について一億五〇〇〇万円、妻Cについて二億円の保険金とする設計書を作成していた。

被告Bは、保険金額が巨額であり、このとき妻Cも同席していたので、改めて変額保険について一時間程度説明した。

このときは、主に手書きの資料を用いて、土地を担保にして保険料を銀行から借り入れて一時払い変額保険終身保険に加入し、毎年の借入利息もその都度銀行から借り入れすること、被保険者が原告である契約については、相続発生時に相続人に保険金が支払われ納税資金の準備ができること、被保険者が原告の相続人である契約については、相続時の保険の評価が解約返戻金相当額ではなく保険料相当額でなされる一方、銀行からの借金は利息を含めて相続財産から控除され相続財産評価額を引き下げる効果があり、また、二次相続、三次相続の備えになることを説明した。しかし、原告の資産や予測の利回り等を前提とした具体的な金額についての話はしなかった。

原告は、運用実績について、このとき被告Bが九%以下になることはないと断言していたと主張し、被告Bはこのような断定的なことは言ってないと供述するところ、本件全証拠によっても、被告Bがこのような断定的な言い方をしたかどうかは明確でない。

しかしながら、以下に述べる資料の記載からすると、被告Bは、変額保険の運用実績について、九%程度で回ることについて楽観的な観測を述べたと考えられる。すなわち、原告を被保険者とする設計書(甲第一七号証)には、原告が七七歳になった時点まで九%の運用がされた場合の死亡保険金欄にアンダーラインが引かれており、甲第二号証・乙第一〇号証の二は、新聞記事をもとに作成された資料であるが、その中に、要旨「変額保険発売以降(一九)八九年六月末までの運用資産全体の伸び率を年換算すると一五・七%の利回りであった」と記載されているのである。

しかしながら、右甲第二号証・乙第一〇号証の二は、新聞記事として発表されたものであり、同書面中にその記事のコピーも添付しておりその内容自体虚偽のものではないし、右文章の後に「個別契約毎の解約返戻金の利回りを表示したものではありません」とも記載されている。また、変額保険の特徴については、甲第二七号証・乙第一二号証のパンフレットには、「変額保険とは」との表題の下に「保険料は一定で、保険金額が特別勘定の資産の運用実績に基づいて増減する生命保険です。」と記載され、さらに特別勘定の説明と運用対象が株式や公社債であると記載された後に、ゴチックで「経済情勢や運用如何により高い収益を期待できますが、一方で株価の低下や為替の変動による投資リスクを負うことになります。」と記載されている。そして、さらに、保険料を借り入れることについては、甲第一号証の二(乙第一〇号証の一〇)を抜粋した手書きの資料である第一号証の一(乙第一〇号証の四)には、「保険料を一銭も払わずに高額の相続対策資金が準備できる理想の相続対策プラン(RITプラン)が開発されました」とある部分にアンダーラインが記載される反面、「ご所有の土地に根抵当権を設定し、これに伴う登録税とともに全額銀行から借入」「毎年の利息はその都度追加借入(=元金に繰入)」という部分もアンダーラインが引かれており、銀行から借金をして保険料を支払うことが分かるようになっていた。また、甲第九号証(乙第一〇号証の五)においても、「不動産等を担保に保険料を借り入れる方法」「支私利息も返さ」ずに借り増し「負債額が膨らみ節税効果」という部分にアンダーラインが引かれており、借金が増えていくことが強調されている。

原告は、以上の資料を受け、被告Bの説明を聞いて、どこの銀行で借りられるのか質問し、被告Bは被告東京三菱を紹介できると答えた。

(三) 平成元年一〇月一〇日ころ、被告Bは相続税対策セミナーへの参加を勧めるため原告方を訪問し、ホテル・サンガーデン柏で行われるセミナーについての案内を渡した。同月二一日、原告は欠席したが、妻Cが、右のセミナーに参加した。このセミナーでは、相続税対策の資料や変額保険のパンフレット等が配布され、税理士や被告明治生命の担当職員による説明があった。

(四) 同月三〇日ころ、被告Bは、集金のために原告方を訪問し、さらに、ホテル・オークス柏で講演会があるので参加するよう勧誘した。同年一一月一日ころ、原告夫婦は、同講演会に遅れて参加し、変額保険を利用した相続税対策の話を聞いた。

(五) 右講演後も、被告Bは、何度か原告方を訪問して説明を行い、原告は変額保険への加入を決意した。原告の決意を受けて、被告Bは上司を通じて被告東京三菱に融資の依頼をした。右依頼によって、被告東京三菱の栗原は、平成元年一一月初旬、原告方を訪れ、原告に会って、原告が既に変額保険加入の意思を固めていると受け取ったので、銀行の貸出のスキーム、具体的には、貸出金額が担保の評価額の二分の一以下であること、毎月発生する利息は一年間に一回原告が前借りすること、過去の金利の平均が七%程度であったこと、現状の貸出金利、保証人や担保の設定が必要であること等を説明した。その際、原告は、銀行の借入金利の増加や変額保険の運用が将来どうなるか不安に思っている様子で、栗原に質問したため、栗原は、当時のインフレ下で相続税が高額化しているので、本件各変額保険加入により、そのリスクを回避しうること、相続税の納付原資を確保でき、相続税対策になるという趣旨の内容を答えた。そして、被告東京三菱で、原告の資産を評価することが決まった。

(六) 同月一二日ころ、被告Bは、被告明治生命の社医を原告方に案内し、原告夫婦は健康診査を受けた。このときに、被告Bは申込書二通を交付し、原告の署名捺印を得た。

また、同日ころ、栗原は、原告の資産総額を四億円と評価したので二億円程度の貸し出しができると原告に伝えた。

(七) 同月二〇日ころ、被告Bは、健康診査の結果を知らせに原告方を訪問し、原告は診査に通ったが、妻Cは通らなかったことを伝えた。

(八) 同月二四日ころ、栗原は、被告東京三菱本部の承認及びダイヤモンド信用保証の承認が降りたので、原告方を訪問し、ローン契約書類など約定書の内容を説明し、署名捺印をもらい、一億九五〇〇万円の本件融資契約が締結された(丙第一ないし四号証)。

同月二七日に、原告を被保険者とする保険契約の保険料を振り込まれたので、被告Bは、原告方を訪問して「ご契約のしおり定款・約款」と保険料領収証を渡した。

(九) 平成元年一二月二日ころ、被告Bは、原告方を訪問し、被告明治生命で再検討した結果、妻Cも保険金額一億円を限度として加入できることになったことを報告した。そして、一億円減額になったことで、支払うべき保険料が減ったので、原告の希望により、その分を長男D、長女Eを被保険者とする変額保険契約を締結することが決まった。

同月五日、被告Bは、原告方を訪問し、原告夫婦に、長男Dと長女Eを被保険者とする設計書二通(Dの保険金額を一億円、Eの保険金額を一億一四八〇万円として作成したもの)を渡し、設計書どおりの金額で契約することが決まり、原告は二通の申込書に署名捺印した。後日、長男D、長女Eは健康診査を受け、診査に通り、同月二六日、原告から保険料が振り込まれたので、被告Bは原告方を訪問し、保険料領収証を交付した。(以上、甲第二一ないし二六号証)

4  その後の経緯

その後、原告は、本件各変額保険契約について、解約しておらず、当裁判所において無効の主張もしていないので、本件各変額保険は有効なまま存続している。

5  変額保険の運用実績について

平成三年七月時点でされた平成二年度ダイナミック保険決算報告(乙第二一号証)によると、四件の本件各変額保険契約締結日である平成元年一二月一日及び平成二年一月一日契約の変額保険の運用実績は、それぞれマイナス一〇・四七%とマイナス一二・二%であったと認められるから、前記のとおり被告Bが勧誘の際に述べた年九%とは全く異なっている。しかしながら、これは後から翻って見た場合の数値であって、被告Bが原告を勧誘した時点でのこの数値を見てみると、平成元年六月末日時点の情報で、被告Bが初めて原告に変額保険の説明をした昭和六二年八月一日契約の変額保険の運用実績は一二・六九%、その時点で判明している最新の契約分である昭和六三年七月一日契約分で八・〇一%であり(甲三七号証)、平成二年二月七日時点の情報で、平成元年二月一日から平成二年一月三一日(直近一年間)の運用実績は一〇・五四%であったと認められるから(甲第三四号証)、被告Bの説明とそれほどの差異はない。さらに、株価が急落した後の平成二年七月時点でされた平成元年度ダイナミック保険決算報告(乙第二〇号証)によると、その時点で判明している最新の契約分である平成元年四月一日契約分の運用実績でも五・四三%を保っているのである。

三  以上によって考える。

1  まず、原告は、本件各変額保険契約を解約しておらず、当裁判所においても契約無効の主張はしていないので、本件各変額保険は有効であることを前提とせざるを得ない。そうすると、原告は、本件提訴まで変額保険の利益を享受し続けてきたにとどまらず、将来にわたっても解約返戻金や最低保証額(基本保険金額)の付いた保険金を原告やその遺族が受け取れる地位を保有しているのであって、結局、今現在において原告に損害が発生していると認めることはできないのである。

2  しかしながら、さらに変額保険の性質や被告Bの勧誘方法等について考えてみると、

(一) 変額保険は、前述のとおり、他の定額保険等に比べるとハイリスク・ハイリターンな性格を有するものであり、信義則上、保険業者において、そのような性質を持つ商品であることに関する説明義務が存するというべきであるが、それ以上、経済情勢や金利の動向などの予測、相続税制の状況など、将来にわたる事象を正確に予測することは誰にもなし得ないところであるから、このような将来の変動要因によって発生するリターンとリスクを考えて判断し、行動するのは契約者自身であって、最終的な契約締結に当たっては、契約者が自己責任を負うことを前提としなければならない。

このような観点から見れば、右信義則上認められる説明義務としては、業者において、顧客の年齢、学歴、経歴、地位、商品知識等の属性に応じて、顧客に対して、前記のような変額保険の基本的な仕組み、そのリスクを認識するために必要な程度の説明がなされ、具体的な勧誘時の状況等を前提に、自己責任を問えるだけの情報が与えられていれば足りるというべきであり、顧客の意思決定を殊更に歪めるような説明があったとか、顧客が基本的な仕組みやリスクについて認識していないことを業者において知っていたか、容易に知り得たといった特段の事情のない限り、それ以上の説明義務は負わないというべきである。

(二) ところで、原告は、尋常高等小学校を卒業後、戦争を体験し、その後は、バスの運転手等をして退職しており、学歴経歴という観点のみからは、通常より丁寧な説明が要求されるとも考えられるところであるが、他方で、前記認定のとおり、原告は、資産管理を自ら十分なし得、確定申告なども自ら行っており、保険の加入については損得を十分に考える態度が窺われ、本件変額保険の加入の前にも別の変額保険や定額保険に加入していたことからすれば、判断力や商品知識の面で、一般の顧客に対する程度の説明によって、変額保険の特性等について十分に理解、判断できるものと考えられ、自己責任原則を問えるだけの前提が備わっていたというべきである。

(三) このような原告に対し、前記認定のとおり、被告Bは、基本的な変額保険の仕組みや、その保険料支払いのため根抵当権を設定して銀行借り入れをすることの説明をしているのであるから、基本的な説明はされていると認められる。

ただし、被告Bは、本件各変額保険の利回りが良いということを強調していたことは疑いがなく、その説明が原告の意思決定に影響を与えたという面も否定できないから、保険募集人として妥当な説明がなされたか疑問がないではない。しかしながら、当時保険会社の公表していた利回りは、前記のとおり被告Bの説明とほとんど相違はなく、原告が本件各保険契約を締結した平成元年一二月当時は、まだ株価が高騰を続けていて同年末には最高値を付けた状況であり、翌平成二年一月からの株価急落を予想することは至難の業であったことは顕著な事実であって、その株価急落の後も、現状のような大規模な不況が継続するとの予測が一般的であったわけではなく、楽観的な見通しも不自然ではなかったことなどの情勢を前提とすれば、被告Bの説明に原告主張のような公序良俗に反するほどの違法性があったとまでは断じ難いのである。

(四) このように考えると、被告明治生命及び被告Bに説明義務違反があって、公序良俗に反するとの原告の主張は理由がないといわざるを得ない。

3  被告東京三菱について

被告東京三菱は、通常の消費貸借契約を締結にしたに過ぎず、同契約は、法律上本件各変額保険契約とは別個のものといわざるを得ないから、生命保険会社と明白な提携があるとか銀行員が積極的に勧誘に携わったといった事情のない限り、基本的には消費貸借契約の説明をすれば足りるというべきである。そして、栗原は、前記認定のとおり、融資契約について基本的な説明を行ったと評価できるので、被告東京三菱に違法な行為はない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佃浩一 裁判官 甲良充一郎 裁判官 西村修)

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